従業員が会社で長く働くことができる環境を作る--それが人事担当者にとっての永遠の課題の一つです。
この記事では、従業員リテンション(定着率)を高めるための5つのポイントを詳細に解説します。
それでは、さっそく本題に入りましょう。
目次
そもそもリテンション(定着率)とは何か?
従業員リテンション、すなわち「定着率」は、従業員が一定期間会社にとどまる確率を示す指標です。
この指標が高いほど、従業員が安定して働いていると言えます。
リテンションを測定するための基本的な方法
従業員リテンションを測定するためにはいくつかの方法がありますが、最も一般的なのは「離職率」を計算する方法です。
離職率(%)=(一定期間内に離職した人数 / その期間の平均従業員数)×100
この式を用いて、企業がどれだけ人材を確保できているのか、客観的な数値で評価することができます。
数値で見るリテンションの重要性
従業員が長期間勤務することで、企業はリクルーティングコストや研修コストを削減できます。
具体的には、新規採用のコストは既存従業員を維持するコストよりも高いとされています。
具体的にはそれぞれ以下のようなコストが想定されます。
採用コスト:新規採用にかかる平均コストは約50〜80万円と言われています。
教育・研修コスト:新入社員一人あたりにかかる研修費用は、約10万円から20万円。
生産性の低下:新人が業務に慣れるまでには時間がかかり、その間の生産性低下が見込まれます。
経験とスキルの損失:ベテラン従業員が去ることで、その専門スキルと経験が失われます。
社内モラルの低下:頻繁な人事異動や離職が多いと、残留する従業員の士気やモチベーションに影響が出ます。
これらを総合すると、一人当たりの離職で企業が負担するコストは、その従業員の年収の1.5倍〜2倍程度とされています。
特に中小企業では、人手が少ない分、一人一人の離職がもたらす影響は大きいです。
このようなコストを削減し、企業の健全な成長を支えるためにも、従業員リテンションは非常に重要な経営課題といえます。
リテンションを成功させる第1のポイント:オンボーディング
オンボーディングは、新入社員が組織にスムーズに適応する過程です。
成功するオンボーディングは、新入社員が自分の役割を理解し、チームと連携するために不可欠です。
- 重要な要素
事前準備:新入社員が業務を開始する前に、必要なツールや資料、そしてメンターを準備。
オリエンテーションプログラム:企業文化や価値観、ビジョン・ミッションを明確に伝える。
役割と期待値の明示:新入社員が具体的に何をすべきか、どのような成果が期待されるのかを明確にする。
フィードバックと評価:初期の段階で積極的なフィードバックを行い、適応状況を評価。 - 効果
新入社員の早期適応
離職率の低減
チーム内コミュニケーションの向上 - オンボーディングでよくある失敗とその対処法
一般的な失敗例としては、新入社員に対するフォローが不足しているケースがあります。
このような状況では、新入社員は孤立感を感じ、早期に離職してしまう可能性が高まります。
対処法としては、定期的なフォローアップやメンター制度の導入が有効です。
リテンションを成功させる第2のポイント:コミュニケーション
コミュニケーションは、従業員が企業に長く留まるかどうかに大きな影響を与えます。
- 重要な要素:
透明性:経営層から従業員まで、組織の目標や成果、変更点などをオープンにする。
定期的なミーティング:週次、月次での定期的なミーティングを設定し、全員で情報を共有。
個別のフィードバック:一対一の面談を定期的に設け、個々の従業員が抱える問題や懸念に対応。
社内SNSやチャットツールの活用:非公式なコミュニケーションも大切。SlackやTeamsなどのツールを活用する。 - 効果:
信頼と安心感の構築
より高いエンゲージメント
問題や懸念が早期に発見・対応できる
オンボーディングとコミュニケーションがうまく機能すると、従業員は企業に長く忠誠を持って働くことがより可能になります。
それが結果として、リテンションの向上につながります。 - コミュニケーションツールの活用
効果的なコミュニケーションを実現するためには、さまざまなツールの活用が考えられます。- 社内チャットツール(例:Slack、Teams)
これらのツールを使えば、リアルタイムでのコミュニケーションが可能です。緊急の連絡や短い質問には特に便利です。 - ビデオ会議ツール(例:Zoom、Google Meet)
遠隔勤務やリモートワークが増える中で、ビデオ会議ツールの活用は必須です。顔を見ながらのコミュニケーションで、より深い関係性を築くことができます。 - プロジェクト管理ツール(例:Asana、Trello)
プロジェクトの進捗状況やタスク管理を共有することで、メンバー全員が目標に対する理解を深め、効率的に業務を進められます。 - 社内SNS(例:Yammer、Workplace、SOLANOWA)
社内での情報共有やコミュニケーションを促進するために、社内SNSの導入も考えられます。
従業員アンケート(例:Googleフォーム、SurveyMonkey) - 従業員の意見やフィードバックを匿名で集めることで、改善点を明確にすることができます。
- 社内チャットツール(例:Slack、Teams)
これらのツールを上手に活用することで、企業全体のコミュニケーションを効率化し、従業員リテンションを高めるための環境を整えることができます。
リテンションを成功させる第3のポイント:キャリアパス
従業員が会社で長く働き続けるためには、自分がどう成長できるのか、将来どうなりたいのかというビジョンが明確でなければなりません。
そのため、企業は以下のようなキャリアパス支援策を導入することが有効です。
- キャリアプランニングの定期的なレビュー
上司やHRとの面談を通じて、従業員一人一人の短期的・長期的なキャリア目標を明確にします。 - スキルマップの整備
従業員が目指すべきスキルや知識を明示し、それに対する研修や教育プログラムを提供。 - ローテーション制度
異なる部署やプロジェクトでの経験を積むことで、多角的なスキルと視点を身につけられるようにする。 - メンタリングの重要性
特に新人やジュニア従業員にとって、メンターがいることでスキルアップが速く、自信を持って業務に取り組むことができます。
メンターは技術面だけでなく、企業文化やチーム内でのコミュニケーションについても指導します。
リテンションを成功させる第4のポイント:報酬と手当
報酬と手当は、従業員が企業に長く留まる大きな動機の一つです。
ただし、単に給与を上げるだけではなく、その他の手当や福利厚生も考慮に入れる必要があります。
- ベース給与
当然ながら、業績やスキルに応じた公平な報酬設定が必要です。 - ボーナス制度
実績に基づくインセンティブを設けることで、従業員のモチベーションを高めます。
特に目標達成型のボーナスは、具体的な成果に対する報酬として機能します。 - 福利厚生
企業が提供する医療保険、退職金制度、ストックオプションなどは、従業員が企業に長く勤める意欲を引き出します。 - ワークライフバランス手当
子育てや介護、趣味と仕事を両立するための手当や制度(例:フレックスタイム、リモートワーク手当)も今日では一般的です。 - 育成・教育手当
スキルアップを望む従業員に対し、外部研修や資格取得のための手当を用意することで、キャリアパスを明確にしやすくなります。
認知と評価: 賞や表彰制度を用意することで、従業員が得る精神的な報酬も重要です。
このように、多角的な報酬と手当の設計をすることで、従業員が長期間働き続ける環境を整えることができます。
この点が、リテンションを成功させるための重要なポイントの一つです。
リテンションを成功させる第5のポイント:エンゲージメント
エンゲージメントは従業員が仕事にどれだけ情熱を持ち、企業に対してどれだけコミットしているかを表す指標です。
高いエンゲージメントを持つ従業員は、生産性が高く、企業に長く勤める傾向があります。
以下に、エンゲージメントを高める具体的な方法をいくつか示します。
- 従業員調査
定期的なアンケートやフィードバックツールを使用して、従業員の意見や要望を収集します。 - オープンなコミュニケーション
マネジメント層と従業員との間で透明性が確保されているかどうかが重要です。
定期的なミーティングやワンオンワンの面談で、企業戦略や変更点、各人の成績を共有します。 - 成長と発展
従業員一人ひとりがスキルを磨き、キャリアを積めるような環境を提供します。
これにはメンタリングプログラムや研修、スキルアップの機会が含まれます。 - 報酬と評価
従業員が目標に対してどれだけ貢献しているかを明確にし、それに対する報酬や評価を公平に行います。 - 社内のコミュニティ作り
チームビルディング活動や社内イベントなどで、従業員同士の絆を強めます。
高いエンゲージメントは従業員が自ら進んで努力をする環境を作るため、リテンションを成功させる上で非常に重要な要素と言えるでしょう。
エンゲージメントを測る指標従業員のエンゲージメントを測るためには、複数の指標があります。
以下、主要なものをいくつか列挙します。
- 従業員満足度(eNPS)
従業員が自分の職場を他の人にお勧めするかどうかを測る一般的な方法です。
高いeNPSスコアは、高いエンゲージメントを示している可能性があります。 - 定着率
高い定着率は、従業員が企業に長期間在籍しているということで、これが高いエンゲージメントの一つの指標とされています。 - 生産性
生産性の高い従業員は通常、高いレベルのエンゲージメントを示しています。
生産性は、成果やKPI(重要業績評価指標)を用いて測定することが多いです。 - 出席率と遅刻、早退の回数
これらの指標も従業員のエンゲージメントに影響を与える可能性があります。
頻繁な遅刻や早退、低い出席率は低いエンゲージメントを示す可能性があります。 - 360度フィードバック
上司、部下、同僚からのフィードバックを集めることで、従業員がどれだけチームに貢献しているか、エンゲージメントが高いかを評価します。
これらの指標は、単独で見るよりも総合的に分析することで、より正確なエンゲージメントの状態を把握することができます。
まとめ
従業員のリテンションを高めるためには、多くの要素が複雑に絡み合っています。
オンボーディングからエンゲージメントまで、全体的な戦略として練り込む必要があります。
特に、オンボーディングでの成功、コミュニケーションの充実、キャリアパスの明確化、報酬と手当、そしてエンゲージメントの向上は、従業員が長期間企業に貢献するために不可欠です。
それぞれのポイントにおいて具体的な戦略とアクションプランを練ることで、成功するリテンション戦略を築くことができるでしょう。