リモートワークを筆頭に働きかたが多様化している現在では、企業と従業員の関係にもさまざまな変化が起きています。
かつて「日本型雇用」と言われた終身雇用制度を見直す企業が増加し、雇用の流動化が進んでいることもその1つです。
雇用市場が活性化するメリットがある一方で、企業にとっては人材が流動することで、従業員が持っている知識や経験も流動してしまうことを意味しています。
企業経営には、従業員が持つナレッジ(知識や経験)が欠かせません。いわばナレッジは企業の資産でもあります。
蓄積されたナレッジを資産として、新たなナレッジを作り出していくことができるかが、これからの企業経営に求められています。
そこで重要なのが、個人の持つナレッジを企業内で活用していくために、誰もが知ることのできる情報として広く共有できるよう管理していく「ナレッジマネジメント」です。
今回はナレッジマネジメントについて、企業にもたらすメリットや具体的にはどんなことをすべきかなど解説していきます。
目次
●ナレッジマネジメントとは
●ナレッジマネジメントが注目される理由と経緯
●ナレッジマネジメントの基礎は「2種類の知識」
・暗黙知
・形式知
●暗黙知をなくすナレッジマネジメントのメリットとは?
・企業の競争力が高まる
・人材育成に役立つ
・顧客対応力を強化できる
・SDGsやサステナビリティの実現
・新たなナレッジの取得
●暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントの手法「SECIモデル」
●ナレッジマネジメントを支援するツールの種類
1:グループウェア
2:エンタープライズサーチ
3:データマイニング型
4:CRM
5:ヘルプデスク(Q&A)
●まとめ
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、従業員一人ひとりが持つ知識や経験、ノウハウを企業全体で蓄積し共有することで日々の業務や経営戦略に活かし、企業の生産性や競争力、企業価値を高めていく経営手法です。
ナレッジマネジメントは、1990年代に一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏らが提唱した「知識創造理論」に端を発する"日本発祥の経営理論"である点でも注目を集めています。
ナレッジマネジメントが目指すものは「知識経営の実現」だと言われています。
単に情報をデータベース化したり、社内イントラネット整備といった「知識管理」を行うだけではなく、こうした環境を整えることで新たに知識の創造を行うことを目的としています。
ナレッジマネジメントを実現するためには、蓄積したさまざまな情報資産を企業全体でいかにして共有していくか、すなわち情報共有が重要だと言えます。
ナレッジマネジメントが注目される理由と経緯
かつて日本企業の多くは、ベテランの知識や経験は属人的な自然継承により、それぞれの企業で次世代に受け継がれていくことがほとんどでした。
こうした企業風土や文化が日本企業の強みでもあったと考えられていましたが、この伝統的な自然継承は膨大な時間がかかります。
そして終身雇用制度の事実上の崩壊や雇用の流動化などが進んだ現在では、個人が持つ知識や経験もともに流出してしまうことが大きな問題となっています。
もはや自然継承だけでは企業全体でナレッジの蓄積や共有を維持することが困難になってきているのです。
しかしながら、これまでは明確に言語化することが難しかった"個人が持つ知識や経験"も、IT技術やAI機能の進化により形にすることが可能になりました。
"個人が持つ知識や経験"すなわちナレッジの重要性が増したことと、形にして残す技術が発展したこと。
以上2つの理由からナレッジマネジメントに注目が集まっています。
ナレッジマネジメントと「2種類の知識」
ナレッジマネジメントを理解する上で重要な考え方として、「暗黙知」と「形式知」という2種類の知識の分類があります。
この暗黙知を形式知に転換して共有し、組織全体の知識へと進化させることがナレッジマネジメントです。
・暗黙知
暗黙知とは個人が持っている知識やノウハウ、長年の勘などと言われているものです。
暗黙知は、共通の経験を通して共有することは可能ですが、言葉や文章で表現しないと知識として共有されにくいといった特徴があります。
・形式知
形式知とは言葉や図表、数式などの形でデータ化された知識のことです。
暗黙知を言葉や文章で表現したものが形式知となり、企業内でも共有しやすい知識となります。
もう一度まとめると、個人に蓄積されてきた知識や経験である「暗黙知」を、文章や図表などによって表現される「形式知」へと転換し、企業全体で共有すること。
そして「形式知」を活用してさらに高度なナレッジを創造することで、企業を進化させることができるというのが、ナレッジマネジメントの基本的な考え方です。
暗黙知をなくすナレッジマネジメントのメリットとは?
知識として共有されにくい暗黙知を誰もが理解しやすい形式知に変えることで、企業全体における情報共有が格段にスムーズになります。
そして、さまざまな情報やデータを集約し共有しやすく管理することは、業務の効率化に繋がります。
例えば、紙ベースで作成していた情報をデータベース化することで、上書き保存や再利用が容易になり工数を削減することができます。
また、これまで個人が自己流で行っていた業務フローを整理しマニュアル化することで、やり方のばらつきもなくなります。
引き継ぎなどもスムーズに行えるようになるでしょう。
ナレッジマネジメントを導入することでこうした業務の効率化が進むと同時に、次のようなさまざまなメリットをもたらすと考えられています。
・企業の競争力が高まる
前述の通りナレッジマネジメントを導入することで情報共有がスムーズになります。
従業員が正しい情報や業務マニュアルなど必要な情報にアクセスしやすくなり、データやノウハウなど重要な情報も必要な時にすぐ手にすることができます。
企業全体でナレッジ共有が可能となることで一人ひとりの業務速度が上がり、パフォーマンスも向上し、結果として企業の競争力が高まることが期待できるでしょう。
・人材育成に役立つ
これまでの企業活動のなかで蓄積された経験や知識、ノウハウといったナレッジは、企業にとって重要な情報資産となります。
こうして蓄積された情報資産は、そのままナレッジ共有として人材育成にも活用することができます。
・顧客対応力を強化できる
企業にとって顧客の意見や情報は、企業経営に欠かせないリソースの1つでもあります。
顧客から寄せられる意見やクレーム、それに対する自社の対応を集約してデータベース化することで、顧客対応のノウハウを企業全体で共有しやすくなります。
顧客対応のスピードや質が向上し、組織全体で顧客対応力を強化することができます。
同時に、こうした取り組みから顧客の声を企業経営に反映することも可能になるでしょう。
・SDGsやサステナビリティの実現
情報を紙媒体で管理している場合は、更新するたびに書き換えや廃棄といった手間や費用がかかります。
データ化して管理することでペーパーレスを促進しSDGsの実現に貢献できます。
また、リスク回避やトラブルシューティングに関するナレッジも蓄積しておくことで、有事の際にも復旧を早めることができ、サステナビリティの向上にも役立ちます。
・新たなナレッジの取得
蓄積したナレッジを適切に管理しておくことで、部署を超えた連携が強化され、あらゆる情報共有がスムーズになります。
既存の情報を必要な時に参照することができれば、そこから何かヒントを得たり、ナレッジをブラッシュアップしたりすることが可能になり、また新しいナレッジを生み出すことが可能です。
ナレッジマネジメントの目的でもある、新たな知識の創造を行うことができるようになります。
暗黙知を形式知化するナレッジマネジメントの手法「SECIモデル」
では、ナレッジマネジメントの目的でもある"新たな知識の創造を行う"ためにはどのようにしたら良いのでしょうか?
現在のナレッジマネジメントを実現するフレームワークとして有名なのが「SECII(セキ)モデル」です。
SECIモデルとは、個人に蓄積された知識や経験、すなわち「暗黙知」を組織全体で共有して「形式知化」するための理論です。
SECIモデルは以下の4段階のプロセスを辿り、繰り返します。
1:共同化(Socialization)プロセス
個人が持つ暗黙知を、共通の体験や経験を通じて互いに共有し合うプロセス
例:実務を通して先達・先輩の持つ技術や知識を身につける、経験者と一緒に営業回りに行く
2:表出化(Externalization)プロセス
個人の持つ暗黙知や他者と共通の暗黙知を、言葉や文章、図表を用いて表現し形式知化を行うプロセス
例:朝礼やミーティングで上司や同僚へ業務タスクの報告を行う、マニュアルを作成する
3:結合化(Combination)プロセス
既存の形式知と洗い出した形式知を組み合わせることで、新たな形式知を創造する
例:他部署での成功事例などを参照にして業務効率化を図る、上司や同僚に仕事のコツを聞き自分で実践してみる
4:内面化(Internalization)プロセス
新たに得た形式知を反復して自分に染み込ませるだけではなく、習得した形式知を組織に広め、さらには自分自身も新たな形式知につながる暗黙知を得る
例:マニュアルがなくても自走できるようになる、上司や同僚に聞いたコツを実践した結果、業務の質が向上する
この4段階のプロセスの最後で、個人に内面化された知識はまた新しい暗黙知を生み出していくというように、サイクルが形成されています。
第4段階から再び第1段階へと戻っていき、また新しいサイクルを回していくことが新たな知識を創造するプロセスとなります。
ナレッジマネジメントを支援するツールの種類
実際にナレッジマネジメントを導入する際は、どのように進めれば良いのでしょうか。
ナレッジマネジメントは、基本的に以下の3つのステップで進んでいきます。
・現在の課題や目的を精査する
・情報の共有・可視化を行い、知識化(ナレッジ化)する
・その知識(ナレッジ)を活用・体系化し、業務プロセスに落とし込んでいく
この3つのステップはとても重要です。
ナレッジマネジメントを行うことで解決したい課題や目的を見失っては上手く進めることはできません。
そして、情報をしっかりと可視化しなければ情報共有や管理が難しくなります。
ここで問題なのが、日常の業務と並行してナレッジマネジメントを実施することは、時間と工数がかかることです。
ハードルが高いと言われるナレッジマネジメントを円滑に進める支援をしてくれるのが「ナレッジマネジメントツール」と呼ばれるものです。
ナレッジマネジメントツールには大きく分けて5つのタイプがあります。
1:グループウェア
グループウェアとは、Webシステム上でファイルの共有、社員同士のメールやチャットなどのコミュニケーション、スケジュール管理といったさまざまな情報連携ができるツールです。
マニュアルなども共有することができ、ツールによってはPCやスマートフォンやタブレットなどの端末からアクセスしやすい点も特徴です。
2:エンタープライズサーチ
エンタープライズサーチとは、企業向けの検索エンジンと呼ばれ、社内の情報を検索することに特化したツールです。
ツールによって、Excel・Word・Powerpoint等のOffice系のファイルから、PDFやCSVなどのテキストデータまで一括で検索することができます。
3:データマイニング
データマイニングとは、さまざまな分析手法を用いて大量のデータを分析し、データ間に隠れている相関関係や傾向を可視化するツールです。
近年では、ナレッジマネジメント以外にマーケティングや営業でデータマイニングツールを活用している企業も増えています。
4:CRM
CRMとは「Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップ マネジメント)」の略語で、顧客情報を管理することに特化したツールです。
商談スケジュールや顧客プロフィールなど顧客情報を共有する際に役立ち、企業全体の顧客対応力を高める効果が期待できます。
5:ヘルプデスク
ヘルプデスクとは、Q&AやFAQのように従業員からの問い合わせに対応するためのツールを指します。
担当者でなければわからないことや知識が必要な場合にも、ナレッジから解決策を探すことができたり、該当部署につなぎやすくなるメリットがあります。
まとめ
個人が持つ知識や経験といったナレッジは、企業にとって重要な情報資産です。
この情報資産を有効に活用することができれば、それは企業にとって競争力や技術力、ブランド力といった価値を生み出し、新たな資産になります。
ナレッジマネジメントは難易度が高い取り組みだと言われていますが、実践していくことで結果として企業価値を向上することにつながるでしょう。
前述の支援ツールなどを取り入れてみることで情報共有がスムーズになり、自社にあったナレッジマネジメントの手法が確立できると思います。
また、弊社のWeb社内報サービス「SOLANOWA」をご利用いただている企業では、社内報としての活用のみではなく、社内マニュアルやFAQを掲載するなど、グループウェアの機能の一部や、ヘルプデスクの役割も兼ねて運用されている企業が多数いらっしゃいます。SOLANOWAでは無料の 製品デモ も用意しておりますので、ご興味がございましたらお気軽に営業窓口までお問い合わせください。