ティール組織から考察する新しい時代の組織改革

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コロナ禍を一つのきっかけに、働きかたに関するさまざまな事象が変化し、企業の在り方や組織づくりについて再考する機会が増えています。そんな中、再び注目を浴びているのが「ティール組織」という考え方です。なぜティール組織が再び注目を集めているのか、そして、この組織モデルが企業や社員にどのような影響をもたらすのか解説していきます。

ティール組織の提唱

ティール組織は、2014年に出版されたフレデリック・ラルー氏の著書で提唱された進化型組織モデルのことです。著書の中では、世界有数の企業によるその進化型組織モデルの成果が紹介されており、ビジネス界に衝撃を与えました。そして著書は世界的なベストセラーとなり「ティール組織」という新たな組織モデルの概念が広まりました。

参考文献:ティール組織 〜マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

ティール組織とは?

ティール組織は、管理監督者が業務指示や管理をしなくても、社員一人一人が目的実現に向けて自ら推進できる組織のことを示しています。従来の多くの企業は、管理監督者により部下が統制される階層型組織で成り立っています。しかし、ラルー氏は今まで正解と考えられていたこの管理手法は、組織に悪影響を及ぼしている可能性があると指摘し、目的実現に向けて社員が自発的に働く「組織を一つの生命体」と捉えるティール組織を提唱しました。ティール組織は、従来のビラミッド型の構造ではなく、全員がフラットに横で繋がる構造です。

ティール組織への5段階進化論

ティールとはラルー氏が提唱する概念上の色分けです。組織の進化論として5段階に色分けされており、下図のように発達段階をたどって変容するとされています。
レッド(衝動型)組織 、アンバー(順応型)組織、オレンジ(達成型)組織、グリーン(多元型)組織、ティール(進化形)組織が存在します。そして、レッドを起点に最も階層が高い状態がティールとなり、組織の発達段階を5つの段階で表現しています。

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ティール組織は、レッド組織以降の全ての組織の進化を内包している点が重要なポイントです。そして、ティール組織は急に生まれるものではなく、組織が進化していく中で社員の意識が変わり、結果として生み出される組織の形態であるということです。また、全ての階層組織は単一で存在しないとされています。例えば、この仕事に関しては赤、あの作業はグリーンといったように、1つの企業や組織に様々な階層が混ざっていることが当たり前とされています。その中で現在の組織が何色に属するか、発達段階を総合的に見立てるために用いられます。

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なお、現在の日本にはオレンジ色(達成型)の企業が多いとされています。オレンジ色の組織は、指示系統が明確に存在する点と、成果を出した社員が出世しやすい点という特徴があります。そのため社員同士の競争が悪化し人間関係に亀裂が生まれたり、長時間労働が常態化してしまうデメリットが指摘されており、働き方改革が推奨される背景となった現状を垣間見ることができます。

ティール組織へ導く3つの突破口

進化形と称されるティール組織には明確なビジネスモデルが存在しませんが、ラルー氏はティール組織には3つの突破口があると記しています。著書の中では「従来の組織からティール組織へと進化させる突破口」と表現されています。

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1:セルフマネジメント(自主経営)

ティール組織は上下関係や階層構造が存在せず、全員がフラットである特徴があります。従来の組織では部門化(人事、経理、営業など)されていたあらゆる業務が、意思決定の権限と責任がメンバー全員に課せられていることがポイントです。上司や第三者の指示を仰ぐのではなく、各自が自己管理を行いながら、自身の能力を活かして目標達成に向けて組織を運営します。そのため、常に組織の最良の形を追求し「セルフマネジメント(自主経営)」が可能となるルールや仕組みを考えていく必要があります。そのため、ティール組織には上下関係や階層構造を持たないながらも、プロジェクトや事業単位でチームや役割、ルールなどが細かく存在します。そのため、個人の意思決定を尊重し、情報の共有と透明化を図りながらセルフマネジメントができる組織として機能するよう協力し合いながら働いていく必要があります。

2:ホールネス(全体性)

セルフマネジメント(自主経営)を実践するために必要なのが「ホールネス」です。ホールネスとは、組織内で心理的安全性を確保し働くメンバーが「ありのままの自分」でいられる環境を作ることで能力や個性を最大限に引き出すという考え方です。ここ最近で耳にすることが増えた「ダイバーシティ&インクルージョン」という考え方にも通じるものがあります。メンバー全員が能力や個性を存分に発揮することができれば「集団的知性」を最大化することができます。

3:進化する目的(エボリューショナリーパーパス)

「組織を一つの生命体」と捉えるティール組織では、組織の目的を「進化する目的(エボリューショナリーパーパス)」と考えています。従来の組織では目的や将来のビジョンは固定化されたものが多くを占めていましたが、個人による主体性と流動性を併せ持つティール組織では目的も日々進化すると捉えられています。セルフマネジメントを実現しホールネスのもとで集団的知性を最大化するためには「組織はなんのために存在するのか?」をメンバー全員が常に意識する必要があります。営利的な目標とそこへ向かう目的だけを定めるのではなく、企業と組織が社会で生き残っていくためには進化する目的を把握し企業活動に反映していくことが欠かせません。

ティール組織の5つのメリット

ティール組織へと発達することで、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。階層が存在しないフラットなティール組織で働く従業員は、個人が尊重されることにより心の健康状態が上がり、生産性も向上するといったさまざまなメリットがあります。ここでは、ティール組織のメリットを以下5つの視点で解説していきます。

1:意思決定スピードが速くなる
2:全員が責任感を持てるようになる
3:モチベーションの向上
4:自己成長欲求が満たされる
5:変化に対応しやすくなる

1:意思決定スピードが速くなる

従来の企業とは異なり指示系統が不在のティール組織では、全員が主体的に考えて行動することが求められます。上下関係が存在しないので、上司の指示待ちや判断待ちをする必要がなく、業務が円滑に進むようになり生産性も向上するメリットがあります。同時に、何かを決定する際に誰かの許可を求めることもないので、意思決定のスピードが格段に上がります。

2:全員が責任感を持てるようになる

ティール組織には役職や階級が存在せず、共に働くメンバー1人ひとりが個人の能力に応じて役割を持ち、業務を遂行します。各々の自発的かつ自律的な行動や意欲が不可欠で、あらゆる業務において主体性や当事者意識が高まります。全てを自分ごととして捉えるようになり、メンバー全員が責任感を持てるようになります。こうしたプラスの変化により、自らが組織の一員であるという帰属意識が自然と高まる効果も期待できます。結果として、会社に対する貢献意欲や信頼感を意味する「従業員エンゲージメント」の向上にもつながると言えます。

3:モチベーションの向上

従来のオレンジ型組織のような階層が存在すると、管理する者と管理される者という上下関係が生まれます。組織内での立ち位置やパワーバランスに悩み、目には見えないさまざまな心理的不安やストレスが生じやすくなります。階層を持たないティール組織では、こうしたしがらみがなくなるため、1人ひとりが自らの能力を最大限に発揮できると考えられています。リモートワークを筆頭に、個人のワークライフバランスを尊重したウェルビーイングな働きかたも実現できるでしょう。心身ともに満たされることで常にモチベーション高く働けるようになり、最終的には企業に利益をもたらすことにつながります。

4:自己成長欲求が満たされる

現在も多くの企業では業務の役割分担として、指揮をとる立場(管理職)と、実行する立場(現場の従業員)に分かれていることがほとんどです。明確な指示系統が存在することで、意思決定や業務遂行のスピード感が損なわれ、個人の能力が伸ばしづらい環境になっています。セルフマネジメントが不可欠であるティール組織では、一人ひとりが自律性を持って業務を遂行することが求められます。これは全員が意思決定権を持つこととイコールで、個人の情報管理能力や事業を推進させるスキルを高めることができます。そして、階層が存在しないので、上司や周囲の評価を気にする必要もありません。仕事に集中することができ、目的達成のために個人の能力を最大限に使うことができるので自己成長欲求が満たされます。

5:変化に対応しやすい

近年のコロナ禍やグローバル化により企業を取り巻く環境は急速に変化しています。社会情勢や市場の変化など、あらゆる状況に対応できるのが(進化する)ティール組織だと言われています。ティール組織では、一人ひとりが主体性と自律性を持って業務を遂行するため、判断力や対応力といったアジリティ能力が高まります。不測の事態や緊急性の高い事案が発生してもすぐに対応できるようになり、こうした状況を幾度となく乗り越えていくことで、逆境から立ち直り成長する力であるレジリエンスも高まります。どんな変化にも対応できる柔軟さと、打たれ強さを併せ持った組織へと進化することが期待できます。

ティール組織への進化で超えるべき3つのハードル

多くのメリットを持つ一方で、組織がティール状態へ発達するためには、当然ながら超えるべきハードルもいくつか存在します。確立されたビジネスモデルを持たないティール組織ならではの起こりうる注意点として、主に以下の3点が指摘されています。

1:セルフマネジメント力が不足すると組織として成立しない
2:状況や進捗の把握が難しくなる
3:リスク管理が難しい

1:セルフマネジメント力が不足すると組織として成立しない

ティール組織ではメンバー全員が意思決定権を持ちますが、その前提となっているのが自分自身を律し管理する、セルフマネジメント力です。そのため、一人ひとりのセルフマネジメント力が高くなければ、組織として成り立たなくなる可能性があります。こうした事態を避けるためには、セルフマネジメント力の低下を感じた時点でメンバー全員で話し合いの場を設けることが重要です。
組織の存在目的や各自の役割を改めて認識し、自律ができなくなっている理由について意見を出し合い、時間をかけて原因や解決策を解明していきましょう。

2:状況や進捗の把握が難しくなる

従来の企業に多くみられる「上司から部下へ」といったトップダウンによる明確な指示系統が、ティール組織には存在しません。一人ひとりに進捗管理を任せているため、各自が今どのような状況なのかプロジェクト全体の進捗を把握することが難しくなります。こうした状況で起こりうる懸念として「問題の発生に気付くのが遅れる」点が挙げられます。この課題を解決するためには、プロジェクトの開始前後だけでなく、疑問点をメンバー間ですぐにディスカッションできるよう都度ミーティングを行うなどの対策が必要です。プロジェクトの目標や期限などを共有する以外にも、メンバーの出勤スケジュールや顧客とのやり取りなど、必要な情報を全員がいつでも確認できる仕組みを作り、的確な判断ができるようにしておくと良いでしょう。

3:リスク管理が難しい

ティール組織には明確な指示系統がないため、メンバーの話し合いでプロジェクトが進みます。従来の組織では、重要な決定や判断が必要な場合は、稟議・印鑑・サイン・役員会や資料の回覧などいくつかの承認プロセスを踏みます。企業や組織側に責任の所在があり、リスク管理の面では安全性が高いと言えますが、ティール組織では個人にその決定権が委ねられているのです。そのため、誰か一人がやると決めた収益性の低い事業や企画がかんたんに通り、それに伴う投資がかさむなどリスクを抱えやすくなります。こうしたリスクを回避するためには、企業として目指す方向をメンバー全員が共通認識として持てているかを考えることが大切です。また、リスクが発生してしまった場合の対処法を全社で決めておくと不測の事態にも適切な判断が下せるようになります。そうした取り組みにより、自然とメンバー一人ひとりが自社にとってのリスクを認識できるようになり、プロジェクトの成功につながるでしょう。

ティール組織における重要事項は「信頼関係」

超えるべき3つのハードルについて、いずれの場合も解決策としてティール組織における"信頼関係"が重要になります。セルフマネジメント力が低下していると感じた場合はチーム内でミーティングを行い、目的意識の確認をサポートし合うことが有効です。状況や進捗を把握するためには、メールだけではなくチャット系ツールを導入したり双方でスケジュール管理ができるツールなどを活用することで解決しやすくなります。また、進捗とリスク管理の解決策としては、何かの企画を走り出す時にはすぐにメンバーに公開し全員で検討することが鍵となります。目的達成のために必要な企画なのか、専門的な知識を持つ社員からの助言を受けて企画をブラッシュアップするなど、全員で企画を稟議するイメージです。お互いが信頼関係を築くことで、企画や情報を共有し「損失を被ることは全員が望まない」という共通認識のもとでデメリットを克服していくことができるでしょう。

まとめ

従来の階層型組織と大きく異なるフラットなティール組織は、ベンチャー企業や少数精鋭の小さな組織でないと実現が不可能という声も多く上がります。しかし、ラルー氏の調査対象企業は社員数10人程度〜40,000人と幅広く、規模は影響無関係であることを示しています。ティール組織は5段階の組織発達の最終形態であり、ある日突然発生するものではありません。社員が安心して働き、個の力を発揮できる環境があり、そして社員が意識と目標を高く持つことができなければ実現できないからです。企業も社員もお互いの意識や思考を変えていくことからはじまり、多くの出来事を「自分ごととして捉えれるようになれれば、そこに信頼に包まれたチームワークが生まれるのです。
弊社でも「そらのま」という社内報を運営しています。さまざまな部署から集まった有志メンバーで構成されたコミュニケーションデザインチームが、「まずは自分たちがやりたいこと」を軸に主体的な活動を行っています。トップダウンに指示により義務的にこなすのではなく、自分たちから率先して企画を考えて運用していく点は、ティール組織へと進化していく片鱗を感じております。「管理する・される」という階層がないフラットなチームが社内報を運営という共通の目的のもとで個々の得意な領域を活かして担当分野を決めたり、社内の環境をより良くするためにできることを主体的に考えて実践していくことで、チーム内で信頼関係も同時に深まっていることがわかります。これはティール組織の発達段階でいう、オレンジからグリーンの状態に近づいていることを実感します。このように、どの企業でもこうした社内報の運営という1つの取り組みから、組織の中でフラットなチームが新たに生まれたら、それがティール組織への第一歩ではないでしょうか。そして、ティール組織へと変わる過程の中で自ずと働き方が改革され、多様性を受け入れる風土が生まれ、ウェルビーイングな働き方が実現できると思います。
この記事が今後の貴社の組織改革に役立てていただければ幸いです。

プロダクト事業部長 柴田将之

筆者:プロダクト事業部長 柴田将之

2005年 GMOグローバルサインホールディングス入社。主にソリューションパートナーとのアライアンスを担当し、SMB市場における各種クラウドの普及に尽力。 2013年 スカイアーク入社。社内報プラットフォーム『SOLANOWA』のサービス設計を手掛け、事業責任者として企画・開発・運営を統括。 2019年よりITR Market ViewのWeb社内報エンタープライズ市場にて3年連続シェアNo.1を獲得し、80万ユーザーが利用するサービスへ成長させる。現在は機能強化を重点にさらなるシェア拡大を目指す。

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