近年、ビジネス界で注目を集めているのが、リバースメンタリングという新しい人材育成手法です。
メンターという言葉は耳にすることがありますが、リバースメンタリングに馴染みがない方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、リバースメンタリングの意味やそのメリット、デメリット、そして導入時の成功ポイントや国内で取り入れている企業の事例などをまとめました。
目次
●リバースメンタリングとは
●リバースメンタリングを実施する目的
●リバースメンタリングを導入するメリット
1:新しい価値観や知識の共有で従業員の視野が広がる
2:知識や技術力の向上
3:若手社員の育成とモチベーションアップ
4:コミュニケーションの活性化
5:信頼関係を構築できる
6:マネジメント力の向上につながる
7:従業員エンゲージメントが向上する
●リバースメンタリングの導入が推奨される組織
・ダイバーシティを推進したい組織
・年功序列型の組織
・ヒエラルキー型の組織
・平均年齢が高い組織
●リバースメンタリング導入のデメリットや注意点
・若手社員への負担
・ベテラン社員の抵抗感
・期待値のギャップ
・上下関係の混乱
・相互の能力や価値観の尊重
●リバースメンタリングの導入ステップ
・目的を明確にする
・関係者への説明・合意形成
・メンターとメンティーの選定
・オリエンテーションの実施
・実施と効果測定
●リバースメンタリングを導入している企業事例6社
1:三菱マテリアル株式会社
2:P&Gジャパン合同会社
3:株式会社資生堂
4:UBSグループ
5:住友化学株式会社
6:スリーエム ジャパン
●まとめ
リバースメンタリングとは
リバースメンタリングとは、若手社員がメンターとして、ベテラン社員に指導や助言を行う人材育成制度です。従来のメンタリングでは、経験豊富な先輩が若手を導きますが、リバースメンタリングではその逆が起こることから「逆メンター制度」とも呼ばれます。
近年ではデジタル技術の発展や価値観の多様化に伴い、若手社員の方が専門知識や新しい視点を持つケースが増えています。
リバースメンタリングは、こうしたベテランよりも若手社員のほうが親しんでいる分野や、豊富に持っている知識を指導テーマにすることが多いという点に特徴があります。
例えば、スマートフォンの使い方やSNSの活用方法など、最新技術や新しいジャンルの知識がその例です。
リバースメンタリングを実施する目的
メンタリングは、経験の浅い若手社員をサポートし、成長を促進することを目的としています。
先輩社員や上司がアドバイスや教育を行うことで、若手社員の能力向上を図り、組織の戦力化を目指します。
一方、リバースメンタリングの主な目的は、世代間の交流や社内スキルの向上です。
若手社員が持つ知識や新しい視点を活用し、組織内でイノベーションを促進することを目指しています。
リバースメンタリングを導入するメリット
では、リバースメンタリングを導入することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
具体的なメリットとして、次の7つのメリットがあげられます。
1:新しい価値観や知識の共有で従業員の視野が広がる
リバースメンタリングを導入することで、若手社員の新しい視点やアイデアを積極的に取り入れることができ、結果としてベテラン社員の視野を広げることができます。
特に、デジタル技術やSNSマーケティングなど、近年急速に変化している分野においては、若手社員の方が最新の知見を持っているケースが多くあります。
組織が若手社員のアイデアを無視すると、社員の考えが固定化し、組織が柔軟性を失う可能性があります。
リバースメンタリングは、若手社員の柔軟なアイデアや発想力、多様な働き方に関する考えなどを取り入れやすくなります。
2:知識や技術力の向上
リバースメンタリングを通じて、若手社員の知識やスキルを吸収することで、ベテラン社員は自身の業務範囲や専門知識を拡充することができます。
特に、若手社員が得意とする分野で積極的に支援することで、企業全体のスキルアップが期待できます。
組織は幅広い専門知識を獲得し、競争力を向上させることができます。
また、リバースメンタリングでは、若手社員が先輩社員に対して指導を行う過程で、自身の知識や技術を整理し、体系的に伝える能力が向上します。
先輩社員からの質問やフィードバックを受けることで、理解不足だった点や改善点に気づくことができ、より深い知識や技術を習得することができます。
3:若手社員の育成とモチベーションアップ
リバースメンタリングは、若手社員の育成とモチベーションアップにも効果的です。
若手社員にとっては、自身の強みや価値観を活かして先輩社員に貢献することで、自信と達成感を得ることができます。
また、先輩社員から認められることで、モチベーションが向上し、より積極的に仕事に取り組むようになります。
さらに、リバースメンタリングを通して先輩社員と良好な関係を築くことで、組織への帰属意識が高まり、定着率の向上にも繋げることができます。
4:コミュニケーションの活性化
リバースメンタリングは、世代や役職を超えたコミュニケーションを活性化させる効果があります。
従来の職場では、上司と部下の関係において、どうしても上下関係の意識が生じてしまいがちです。
しかし、リバースメンタリングでは、若手社員と先輩社員が対等な立場で意見交換を行うため、よりオープンでフラットなコミュニケーションが可能になります。
また、リバースメンタリングを通して互いの理解を深めることで、普段は話しにくいことでも気軽に相談できるようになり、より良い職場環境を作ることができます。
5:信頼関係を構築できる
リバースメンタリングは、若手社員と先輩社員の間で信頼関係を築くことができます。
互いに教え合う関係であるため、相手を尊重し、信頼する気持ちが自然と生まれてきます。
また、リバースメンタリングを通して互いの弱みや悩みを共有することで、より深い信頼関係を築くことができます。
互いに尊重し認め合う信頼関係に基づいた良好な関係は、チームワークの向上や問題解決能力の向上にも繋がります。
6:マネジメント力の向上につながる
リバースメンタリングを実施することで、管理職層のマネジメント力の向上につながります。
定期的な対話を通じて、若手社員と管理職との間でコミュニケーションが増え、普段は触れないようなテーマにも触れることができます。
若手社員と上司との交流が増えることで、上司は若手社員の悩みや考え方をより把握しやすくなり、上司は管理者としてどのように対応すべきかを考える機会が増えることで、部下を効果的に指導する際のヒントを得やすくなります。
さらに、異なる世代間での相互理解が深まることで、管理職のリーダーシップの向上が期待できるでしょう。
7:従業員エンゲージメントが向上する
若手社員が積極的に発言できる機会が増えると、若手従業員のエンゲージメントが向上しやすくなります。
リバースメンタリングを通じて、若手社員が自由に意見を述べる文化が醸成されると、彼らのモチベーションも高まりやすいです。
自身の声が尊重される環境で働くことは、従業員の満足度や関与度を高める効果があります。
また、リバースメンタリングは、社員の働き方を支援する側面も持っています。
例えば、子育てをしている社員が会社の制度に不満を感じたり、仕事と家庭を両立する上での課題を上司や経営陣に伝える機会を提供します。
企業がさまざまな社員の悩みに対処することで、生産性や従業員のエンゲージメントが向上することが期待されます。
リバースメンタリングの導入が推奨される組織
リバースメンタリングはどのような企業で、特に効果を発揮するのでしょうか。
リバースメンタリングの導入が推奨される組織とは、主に次のような課題を持つ企業があげられます。
・ダイバーシティを推進したい組織
近年、企業におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性がますます高まっています。 リバースメンタリングは、若手社員や女性社員、外国人社員など、これまで十分に能力を発揮できていなかった層の活躍機会を増やすことに効果的です。
・年功序列型の組織
年功序列型の組織では、若手社員が自身の意見を言いづらく、能力を発揮する機会が少ないという課題があります。 リバースメンタリングは、若手社員が先輩社員に対して積極的に意見を言う機会を提供することで、風通しの良い職場環境を作ることができます。
・ヒエラルキー型の組織
ヒエラルキー型の組織では、上下関係が厳格で、若手社員と先輩社員の交流が限られているという課題があります。 リバースメンタリングは、若手社員と先輩社員が互いに交流する機会を提供することで、コミュニケーションを活性化し、組織全体の活性化に繋げることができます。
・平均年齢が高い組織
平均年齢が高い組織では、新しい知識や技術を取り入れるのが苦手という課題があります。 リバースメンタリングは、若手社員が持つ最新の知識や感性を先輩社員に伝えることで、組織全体に新しい風を吹き込むことができます。
リバースメンタリング導入のデメリットと注意点
リバースメンタリングは、近年多くの企業で導入が進められており、組織の活性化や従業員の成長など、様々なメリットが期待されています。
しかし、一方でデメリットや注意点も存在します。
リバースメンタリングを導入する前に、以下の点について十分に検討する必要があります。
・若手社員への負担
リバースメンタリングにおいて、若手社員は指導者という新たな役割を担うことになります。 これは、本来の業務に加えて時間的・精神的な負担を増加させる可能性があります。 特に、指導経験が少ない若手社員にとっては、適切な指導方法を模索したり、相手とのコミュニケーションを円滑に進めたりすることが難しく、大きなプレッシャーを感じるケースも考えられます。
・ベテラン社員の抵抗感
ベテラン社員の中には、自分よりも経験や知識が少ない若手社員から指導を受けることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。 特に、上下関係が厳しい組織文化の中で育ってきた人にとっては、受け入れがたいと感じる可能性があります。 また、若手社員からの指摘や提案を素直に受け入れることができないというケースも考えられます。
・期待値のギャップ
メンターとメンティーの間で、期待する役割や成果に対する認識にギャップが生じる可能性があります。 例えば、メンターは若手社員から最新の知識や技術を学びたいと考えている一方で、メンティーは先輩社員からキャリアアドバイスを受けたいと考えている場合、互いの期待に応えられず、不満を感じる可能性があります。
・上下関係の混乱
リバースメンタリングでは、従来の上下関係とは逆転した関係で指導を行うため、慣れないうちは戸惑いを感じるケースがあります。 特に、組織文化が強固な企業においては、上下関係の混乱を招き、制度がうまく機能しない可能性があります。
・相互の能力や価値観の尊重
リバースメンタリングを成功させるためには、メンターとメンティーがお互いの能力や価値観を尊重し、理解することが重要です。
世代や職種による価値観の違いから、意見の食い違いや衝突が生じる可能性もあります。
若手社員は、先輩社員の経験や知識を尊重し、謙虚な姿勢で指導を受ける必要があります。一方、先輩社員は、若手社員の新鮮な視点やアイデアに耳を傾け、積極的に学ぶ姿勢を示すことが求められます。
リバースメンタリングの導入ステップ
ここでは、リバースメンタリングの導入ステップについて解説していきます。
リバースメンタリングの導入ステップは、一般的なメンタリングとほぼ同様です。
主に以下のステップで進めていきます。
・目的を明確にする
まず、リバースメンタリングを導入する目的を明確にする必要があります。組織活性化、従業員エンゲージメント向上、ダイバーシティ推進など、具体的な目的を設定することで、その後の制度設計や運用方法を方向づけることができます。
・関係者への説明・合意形成
目的を明確にした後、経営層や人事部、参加する社員など関係者に対して、リバースメンタリングの概要、目的、期待される効果などを説明します。理解と協力を得ることが重要です。
制度導入に対する不安や懸念事項を解消し、積極的な参加を促すためのコミュニケーションを図る必要があります。
・メンターとメンティーの選定
リバースメンタリングを導入する際には、メンターとメンティーの組み合わせを慎重に選定する必要があります。それぞれの役割や目的に応じて、適切な人選を行いましょう。
人員選定の際には、できる限り「評価者と被評価者」という組み合わせを避けることがポイントです。
同じ部署の上司と部下の間には利害関係が生じやすいため、部下が指導することが難しくなる可能性があります。
そのため、上下関係が確立されていない他部署間での選定が果が高まると言われています。
・オリエンテーションの実施
リバースメンタリングを開始する際には、オリエンテーションを行い、進行方法やルールを明確に共有しましょう。
具体的なガイドラインの共有やコーチング、ファシリテーションのスキル向上の学習なども有効です。
特に、指導経験が少ないメンターに対して、必要に応じて研修を実施することも検討するとよいでしょう。
また、オリエンテーションは、メンターとメンティーが顔を合わせ、お互いに信頼関係を築く貴重な機会でもあります。
・実施と効果測定
リバースメンタリングを実施した後は、1か月後や3か月後などの定期的なタイミングで効果を測定します。
定期的にフォローアップを行い、リバースメンタリングの進捗状況を確認します。
リバースメンタリングを効果的に運用するためには、定期的に制度を見直し、改善していくことが重要です。
リバースメンタリングを導入している企業事例6社
リバースメンタリングは、近年国内でも多くの企業で導入されています。
以下、代表的な事例をご紹介します。
・三菱マテリアル株式会社
三菱マテリアル株式会社は、デジタル戦略の一環として、若手従業員が経営層の指導役を務めるメンタリング制度を導入しました。 この制度では、メンターとなる20~30代の若手・中堅従業員を公募し、月1~2回のペースで経営幹部1人に対して二人一組で、様々なテーマについて意見交換を行い、コミュニケーションを強化しています。 さらに、オンラインツールを活用することで、海外拠点の外国人従業員の参加も促進されています。
・P&Gジャパン合同会社
P&Gジャパンでは、2004年からリバースメンタリングを実施しています。
その主な目的は、管理職や役員が部下の仕事や子育てなどに関する悩みを理解することで、任命されたメンターが若手だけでなく外国籍の社員や子育て中の社員という点が特徴です。
そのため同社のリバースメンタリングは相談や助言が中心だと言われています。
リバースメンタリングの実施により、女性社員の増加や出産後の職場復帰率の向上などの効果が出ています。
・株式会社資生堂
資生堂は、2017年にリバースメンタリングのプログラムを開始しました。
5年間で従業員900名弱のメンタリング参加の実績を持ち、管理職と若手従業員が利害関係なく自由に意見交換できる環境を作り出しています。この制度では、他部門の従業員同士を組み合わせ、一年ごとに交代することが基本とされています。
このメンタリングの主な目的は、若い世代の価値観や消費傾向をヒアリングし、マーケティング戦略や業務改善に活かすことです。実際に、若手からのSNSの使い方に関する助言がきっかけとなり、社内コミュニケーションツールにSNSが導入されました。
・UBSグループ
UBSグループの日本拠点では、経営層や若手社員の考え方や行動を変えることを目的として、早期にリバースメンタリング制度を導入しました。
この制度では、若手社員がメンターとなり、経営層がメンティーとなり、2名のメンターが1名のメンティーへ8か月間にわたってアドバイスを行う形式を採用しています。
若手社員が積極的に発言する機会が増え、経営層は若手社員の考え方を柔軟に受け入れるようになるといった好循環が生まれました
その結果、社員満足度調査ではコミュニケーションやエンゲージメントのスコアが向上しています。
・住友化学株式会社
住友化学株式会社は、2020年より試行的にリバースメンタリング制度を導入しています。
この制度の目的は、メンターである若手社員が会社に対する愛着心やモチベーションを高めることと、メンティーである経営陣は知識のリニューアルや視野を広げることです。
3ヵ月ごとにペアを変える工夫がなされており、マンネリ化を防ぐための対策として取り入れられています。
経営陣は若手社員が持つ新しい知識や感性を経営に活かそうと努力しており、若手社員は経営の考え方を身近に学び経営参加への自覚が生まれている効果から、愛社精神にもつながっています。
・スリーエム ジャパン
スリーエムジャパンでは、2018年からリバースメンタリング・プログラムを開始しています。
このプログラムでは、職業経験の浅い社員がメンターとなり、シニアリーダーがメンティーとなり、リバースメンター世代の価値観や考え方を学び、世代や経験の違いを超えて相互理解を深めることを目的としています。
この取り組みはD&Iを高める取り組みとして評価され、2020年からはアジアパシフィック全域で展開されています。
組織内の枠組みや職場の階層を超えてネットワークを拡大し、学びの機会を提供することで、インクルーシブなカルチャーの醸成を推進しています。
まとめ
近年、注目を集めている「リバースメンタリング」は、従来のベテラン社員が若手社員を指導するメンタリングとは異なり、若手社員が先輩社員に指導を行う点が特徴です。
この制度は、単なる世代間の知識伝達にとどまらず、組織の活性化、イノベーションの創出、多様性の推進など、様々なメリットをもたらすことが期待されています。
リバースメンタリングの導入を検討している企業は、まず目的を明確にすることが重要です。
ダイバーシティ推進、風通しの良い組織文化の醸成、人材育成など、具体的な目標を設定することで、制度設計や運用をより効果的に行うことができます。
また、導入にあたっては、デメリットや注意点も理解しておくことが重要です。
若手社員への負担、ベテラン社員の抵抗感、期待値のギャップなど、様々な課題が存在するため、事前に対策を講じる必要があります。
今回ご紹介した企業の事例から、先進的企業は革新的な施策を取り入れていると感じる一方で、こうした先進的な企業でもメンティーが中間管理職よりも経営陣が多い点が浮き彫りになっています。
そのため、今後の企業におけるリバースメンタリング実施の一番の課題は、いかに中間管理職も巻き込めるかにかかっているのではないでしょうか。
リバースメンタリングは、適切に導入・運用することで、組織に大きな成果をもたらすことができます。
ぜひ、当記事も参考に、自社の状況に合わせて導入を検討してみてください。