現代社会では、組織の成長と個人の幸福を実現するために「コミュニケーション」がますます重要になっています。でも、ただ情報をやり取りするだけでは不十分です。本当に大切なのは、お互いを尊重し、理解し合い、協力できるコミュニケーションです。これができると、職場の雰囲気が良くなり、みんなが気持ちよく働けるようになります。
職場でのコミュニケーションにおいて、ちょっとした誤解や意見のすれ違いから生じるストレスは、誰しも経験したことがあるのではないでしょうか?そんな悩みを解決する鍵の一つとして、今注目されているのが「アサーティブコミュニケーション」です。
そこで今回は、チームワークを強化し、個々の可能性を最大限に引き出す力を持つアサーティブコミュニケーションについて、そのメリットや実践方法などをまとめました。
目次
●アサーティブコミュニケーションとは
●なぜアサーティブコミュニケーションが重要なのか?
●アサーティブコミュニケーションを実践する5つのメリット
1:社内コミュニケーションの活性化
2:良好な人間関係の構築
3:自己肯定感の向上
4:従業員のストレス緩和やメンタルヘルスケアに貢献
5:生産性の向上
●ノンアサーティブなコミュニケーションの3つのタイプ
・攻撃的タイプ(アグレッシブ)
・受動的タイプ
・作為的タイプ
●アサーティブコミュニケーションで重要な4つのポイント
1:誠実さ
2:率直さ
3:対等性
4:自己責任
●アサーティブコミュニケーションに効果的なDESC法
・Describe(描写)
・Explain(説明)
・Specify(提案)
・Choose(選択)
●アサーティブコミュニケーション成功例と失敗例
・上司から部下へのコミュニケーション
・部下から上司へのコミュニケーション
・従業員同士のコミュニケーション
●まとめ
アサーティブコミュニケーションとは
アサーティブコミュニケーションとは、自分と相手を尊重しながら、自分の意見や気持ちを正直に伝えるコミュニケーションです。
「アサーティブ」という言葉は、「断言的な」「自己主張が強い」という意味合いがありますが、アサーティブコミュニケーションは、一方的に自分の意見を押し通すことではありません。
むしろ、相手の意見にも耳を傾け、互いに理解し合おうとする姿勢が大切です。
なぜアサーティブコミュニケーションが重要なのか?
近年、テレワークや時差勤務など、多様な働き方が急速に普及しています。
こうした環境下では、従来のコミュニケーション方法では、意思疎通の齟齬が生じやすくなっています。そこで重要となるのが、アサーティブコミュニケーションです。
1949年にアメリカの心理学者ジョセフ・ウォルピによって開発されたアサーティブコミュニケーションは、元々、人間関係構築が苦手な人のために考案されました。
70年以上の歴史を持つこのコミュニケーション手法が近年注目を集めている背景には、前述の多様な働き方の普及や、ビジネスのグローバル化とダイバーシティの進展などが挙げられます。
特に海外を相手にしたビジネスや、国籍、民族、文化の異なる人々が協働する職場においては、相手を尊重しながら自身の意見を伝えられる「アサーティブコミュニケーション」は、円滑なコミュニケーションと相互理解のために不可欠なスキルとなります。
アサーティブコミュニケーションを実践する5つのメリット
アサーティブコミュニケーションを取り入れることで、社内のコミュニケーションの活性化や良好な人間関係の構築など、その効果は多岐にわたります。 ここでは、アサーティブコミュニケーションを実践することで得られる5つのメリットをまとめていきます。
1:社内コミュニケーションの活性化
アサーティブコミュニケーションは、社員同士が互いを尊重し、率直に意見を言い合える心理的安全性のある環境づくりを促進します。上司と部下、先輩と後輩など、上下関係を問わずフラットな関係を築いて、対等な立場でコミュニケーションをとることで、情報共有や意思決定が円滑になり、組織全体の活性化につながります。
2:良好な人間関係の構築
アサーティブコミュニケーションは、相互理解を深め、信頼関係を築くのに役立ちます。
自分の意見を主張するだけでなく、相手の意見にも真摯に耳を傾けることによって、互いの考えや価値観を尊重し合えるようになります。
また、建設的なフィードバックを与えたり受けたりすることで、互いの成長を促し、良好な人間関係を築くことができます。
3:自己肯定感の向上
自分の意見や気持ちをしっかりと伝えられることで、自己肯定感が高まります。自分の考えを尊重してもらえるという経験は、自信につながり、より積極的に仕事に取り組むことができるようになります。
また、相手からの意見や批判も冷静に受け止められるようになることで、心の余裕が生まれ、ストレスに対するレジリエンスも高まります。
4:従業員のストレス緩和やメンタルヘルスケアに貢献
アサーティブコミュニケーションは、ストレスや葛藤を溜め込まないコミュニケーション方法です。自分の意見や気持ちを適切に表現することで、ストレスを解消し、心の健康を保つことができます。周囲の人との良好な関係は、孤独感や不安感を軽減し、メンタルヘルスの安定に役立ちます。
5:生産性の向上
アサーティブコミュニケーションによる円滑なコミュニケーションは、業務の効率化と生産性の向上につながります。意思疎通のミスや誤解、勘違いが減り、チーム全体の作業がスムーズに進みます。社員一人ひとりが自分の意見やアイデアを積極的に発信することで、創造性が高まり、イノベーションが生まれやすくなるでしょう。
また、建設的な議論を通じて、より良いアイデアを導き出すことにも役立ちます。
ノンアサーティブなコミュニケーションの3つのタイプ
相手と対等な立場で向き合い、率直なコミュニケーションを実現するためには、まず自分自身のコミュニケーションスタイルを理解することが重要です。ノンアサーティブなコミュニケーションは、自分の意見や気持ちを伝えられない、押し付けてしまう、無視してしまうなどの特徴があります。ここでは、ノンアサーティブなコミュニケーションの代表的な3つのタイプと、それぞれの特徴についてまとめていきます。
・攻撃的タイプ(アグレッシブ)
1つめは、攻撃的(アグレッシブ)なコミュニケーションです。攻撃的コミュニケーションは、自分の意見や気持ちを一方的に押し付け、相手を尊重しないコミュニケーションです。
対話の中で攻撃的な言葉遣いや態度を使うことが多く、結果として相手に恐怖心や抵抗感を抱かせます。
例えば、「お前はいつもそうだよ!」「あなたのせいで失敗したんだ!」のような言い方がこれに当てはまります。
攻撃的コミュニケーションは、相手を傷つけたり怒らせたりするだけでなく、良好な人間関係を築くことを妨げ、職場におけるハラスメントにつながる可能性もあります。
・受動的タイプ
2つめは、受動的なコミュニケーションです。受動的コミュニケーションとは、自分の意見や気持ちを言わずに、相手の意見や気持ちに流されてしまうコミュニケーション方法で、意見や感情を抑え込み、他人の意見や要求に従う傾向があります。
例えば、「どちらでもいいです」「あなたの言う通りにする」というような言い方をして、自分の考えを主張しません。
このタイプのコミュニケーションは、一見すると平和的に見えますが、実際には自分のニーズや不満を無視することで、ストレスやフラストレーションが溜まりやすくなります。
長期的には、自己肯定感が低下し、職場でのモチベーションやパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。
・作為的タイプ
3つめは、作為的なコミュニケーションです。作為的コミュニケーションは、一見受動的に見えるものの、内心では不満や敵意を抱えており、それを間接的に表現するのが特徴です。作為的なコミュニケーションには、皮肉を言ったり、嫌味を含んだ言葉を使ったりすることが含まれます。例えば、同僚が提案したアイデアに対して、表面的には賛同しながらも、後でそのアイデアの欠点を他の同僚に陰で話すような行動が典型です。作為的なコミュニケーションは、相手に混乱や不信感を与え、職場の信頼関係を損なう結果となり、協力的な雰囲気を妨げます。
アサーティブコミュニケーションで重要な4つのポイント
円滑なコミュニケーションを築き、良好な人間関係を構築するためには、アサーティブコミュニケーションの実践が欠かせません。しかし、いざ実践しようとすると、何から始めればいいのか、どのように伝えればいいのかと悩む方も多いのではないでしょうか。
ここでは、アサーティブコミュニケーションを実践する上で特に重要な4つのポイントについて解説します。
1:誠実さ
アサーティブコミュニケーションを実践するための第一のポイントは、誠実さです。
誠実なコミュニケーションとは、自分自身と相手に対して、常に丁寧で敬意を払った態度で接することです。意見の食い違いがあっても、すぐに反論したり相手の考えを否定したりせず、双方の意見を尊重し、公平に受け止めましょう。相手を攻撃したり、自分の意見を押し付けたりするような言動は避け、互いに建設的な議論ができる環境を作り出すことが大切です。
2:率直さ
第二のポイントは、率直さです。
率直なコミュニケーションとは、自分の考えや意見を、ありのまま正直に伝えることです。相手の言葉の裏の意味を探ったり、憶測で判断したりせず、常にオープンな姿勢で接しましょう。自分の意見を伝える際にも、遠慮せずに率直な気持ちを伝え、相手との理解を深めるように努めましょう。
3:対等性
第三のポイントは、対等性です。 対等なコミュニケーションとは、立場やステータスに関係なく、相手と対等な視点で会話することです。相手よりも優位な立場にいるからといって、意見を押し付けたり、反対に自分が弱い立場だからといって卑屈になったりするような態度は避けましょう。互いに意見を言い合える、尊重し合える関係を築くことが重要です。
4:自己責任
第四のポイントは、自己責任です。
責任感のあるコミュニケーションとは、自分の発言や行動に責任を持ち、言い訳をしないことです。過去に言ったことや考えたことについて、「知らなかった」「言わなかった」という言い訳は許されません。発言したことに責任を持つのは当然のことですが、発言しなかったことにも責任があることを理解し、常に誠実に行動することが求められます。
アサーティブコミュニケーションに効果的なDESC法
アサーティブコミュニケーションを効果的に実践するための方法として、「DESC法」があります。これは、問題解決や意見交換の際に、相手との関係を損なわずに自分の意見を明確に伝えるためのフレームワークです。Describe(描写)、Explain(説明)、Specify(提案)、Choose(選択)の頭文字を取った略称で、4つのステップに沿って自分の意見や気持ちを効果的に伝える方法を体系化したものです。
DESC法の各ステップは次の4つです。
・描写(Describe)
まず、具体的な状況や問題を客観的に描写します。この段階では、主観や感情を交えずに、事実を正確に伝えることが重要です。
例えば、「昨日、AさんからBというプロジェクトの進捗状況について報告を受けました。」といった具合に、具体的な事象を明示します。描写で伝えることで、相手が状況を正しく理解しやすくなります。
・説明(Explain)
次に、その状況や問題に対する自分の感情や意見を率直に表現します。このステップでは、主語を「私」にすることで、自分の感じたことを伝えます。
例えば、「Aさんの報告内容に、いくつか疑問点がありました。特に、Cの部分については、詳細な説明が不足していると感じました。」と述べることで、相手に自分の感情を理解してもらいます。ここでのポイントは、相手を非難せずに、自分の感情を共有することです。
・提案(Specify)
三番目のステップは、相手に対する具体的な要求を明確に伝えることです。ここでは、自分が望む行動や解決策を具体的に示します。
例えば、「Cの部分について、もう少し詳しく説明していただけると助かります。具体的には、DとEの関連性について説明していただけると幸いです。」といった具合に、相手に対して取ってほしい行動を具体的に提案します。具体的な要求を示すことで、相手が何をすれば良いのかを明確に理解できます。
・選択(Choose)
最後に、提案を受け入れた場合と受け入れなかった場合の結果や選択肢を提示します。ここでは、相手が行動を変えたときと変えなかったときのメリットやデメリットを伝えます。
例えば、「もし難しい場合は、後日改めて説明いただけると助かります。」と伝えることで、要求が満たされた場合のメリットを強調します。逆に、「もしこのままの状態が続くと、認識を合わせることができず、プロジェクトの進行に支障をきたすかもしれません」と、問題の継続によるデメリットも伝えます。
アサーティブコミュニケーションの成功例と失敗例
実際にアサーティブコミュニケーションを実践しようとすると、どのようにすれば良いのか迷ってしまうこともあるでしょう。
最後に、上司から部下へのコミュニケーション、部下から上司へのコミュニケーション、従業員同士のコミュニケーションなど、シチュエーション別にアサーティブコミュニケーションの良い例と悪い例とポイントをまとめていきます。
・上司から部下へのコミュニケーション
(良い例)
「今回のプロジェクトで、あなたはAを担当してほしい。あなたの分析力と問題解決能力は高く評価している。何か質問はありますか?」
・部下の能力を認め、具体的な期待を伝えることで、部下のモチベーションを高めることができます。
・また、「質問はありますか?」と尋ねることで、部下が意見を言いやすい雰囲気を作ることができます。
「この案件について、もっと良いアイデアがあれば教えてください。あなたの意見を積極的に取り入れたいと思っています。」
・部下の意見を尊重し、積極的に聞く姿勢を示すことで、部下が主体的に仕事に取り組むようになります。
・また、「あなたの意見を積極的に取り入れたいと思っています。」というフレーズは、部下の自信を高める効果もあります。
(悪い例)
「この書類、早く仕上げろ!何やってるんだ!」
・命令口調で指示を出すと、部下が委縮してしまい、能力を発揮できなくなります。また、「何やってるんだ!」というような暴言は相手を傷つけ、信頼関係を損なう可能性があります。
「このプロジェクト、失敗したらお前が責任取れよ。」
・部下に責任を押し付けるような言い方は、部下のモチベーションを低下させ、チームワークを悪化させてしまいます。問題が発生した場合は、責任の所在を明確にするのではなく、協力して解決策を見つけるように努めましょう。
・部下から上司へのコミュニケーション
(良い例)
「今回の会議で、Aについて提案したいアイデアがあります。よろしいでしょうか?」
・具体的な提案内容を伝え、上司に許可を求めることで、上司の理解を得やすくなります。
・また、「よろしいでしょうか?」と尋ねることで、上司に意見を言いやすい雰囲気を作ることができます。
「この案件について、いくつか質問があります。よろしければご説明いただけますでしょうか?」
・わからないことを素直に質問することで、理解を深めることができます。
・また、「よろしければご説明いただけますでしょうか?」という丁寧な表現は、上司に好印象を与えます。
(悪い例)
「すみません、ちょっと聞いていいですか?」
・具体的な内容を伝えずに質問を始めると、上司の時間を無駄にしてしまう可能性があります。
・質問する前に、まず自分で調べてみるようにしましょう。
「この仕事、私にはできません。」
・すぐに諦めてしまうのではなく、まずは自分でできることを精一杯やってみましょう。
・どうしてもできない場合は、上司に相談し、協力を求めるようにしましょう。
従業員同士のコミュニケーション
(良い例)
「この資料、一緒に確認しませんか?」
・相手に協力を求める際は、具体的な内容を伝え、相手にとってもメリットがあることを示しましょう。
・一緒に作業することで、情報共有や意見交換を促進することができます。
「何か困ってるように見えるけど、手伝えることある?」
・周囲に困っている人がいたら、積極的に声をかけましょう。
・助け合うことで、チームワークを強化することができます。
(悪い例)
「この仕事はみんなで分担していたはずですよね?」
・仕事の成果について不満がある場合は、直接相手に伝えましょう。陰口を叩いたり、悪口を言ったりするのは、問題解決につながりません。
「あいつ、いつもミスばかりしてるよな。」
・人の陰口を言うのはやめましょう。改善点があれば、本人に直接伝えるようにしましょう。
アサーティブコミュニケーションは、相手との状況や関係性によって使い分けることが重要です。上記の例を参考に、自分に合ったコミュニケーション方法を身につけていきましょう。
まとめ
アサーティブコミュニケーションは、自分と相手を尊重しながら、率直かつ誠実に意見や気持ちを伝え、相互理解を深めるためのコミュニケーション方法です。
現代社会において、多様な価値観が共存する中で、円滑なコミュニケーションはますます重要になっています。
アサーティブコミュニケーションを実践することで、職場や家庭、地域社会などあらゆる場面で、より良い人間関係を築き、相互の成長を促進することができます。
アサーティブコミュニケーションは、すぐに身につくものではなく、継続的な意識と努力が必要です。
しかしながら、諦めずに少しずつ練習を重ねることで、必ず上達することができます。
例えば、アサーティブコミュニケーションを身につけるためのヒントは次のようなポイントがあげられます。
・本やウェブサイトでアサーティブコミュニケーションについて学ぶ
・コミュニケーションセミナーに参加する
・信頼できる友人や家族に協力してもらう
・小さなことから意識的にアサーティブコミュニケーションを使う
アサーティブコミュニケーションをより効果的に実践するために、以下の点にも意識してみましょう。
・自分の価値観や信念を明確にする
・相手の気持ちに共感する
・ユーモアを取り入れる
・感謝の気持ちを伝える
・フィードバックを積極的に受け入れる
アサーティブコミュニケーションは、習うことによって誰でも身につけることのできるスキルです。
自分自身のため、そしてより良いはたらき方を築くために、ぜひアサーティブコミュニケーションを学び、実践していきましょう。