広報担当者なら、誰もが経験すると言われているのが「目標設定の壁」です。
明確な目標設定なしに活動を進めてしまうと、成果を測ることが難しく、周囲への理解も得られにくくなります。
広報活動の成果を測定し、効果的な改善を図るためには、KPIの設定が不可欠です。
そこで今回は、広報活動における目標設定の重要性と、効果的な目標設定のポイントや具体的な設定例をまとめました。
目次
●広報におけるKPIとは
●KPIとKGIの違い
●広報活動には社内と社外がある
・社外広報(アウターコミュニケーション)
・社内広報(インナーコミュニケーション)
●広報でよく扱われるKPIとは?
・社外広報(アウターコミュニケーション)におけるKPI
・社内広報(インナーコミュニケーション)におけるKPI
●広報活動のKPI設定によって得られるメリットや効果
・目標の明確化と共有
・進捗状況の可視化
・効果的な活動への改善
・チームワークの向上
・経営層への説明責任
・評価基準を統一
●広報活動におけるKPI設定の5つステップ
1:最終目標となるKGIを定める
2:KGI達成に必要なプロセスを洗い出す
3:プロセスを細分化する
4:プロセスを数値化する
5:数値化したプロセスを業務に反映させKPIとして設定する
●広報におけるKPIの目標設定の例
・社外広報(アウターコミュニケーション)のKPIの具体例
・社内広報(インナーコミュニケーション)のKPIの具体例
●まとめ
広報におけるKPIとは
広報活動は、企業や組織の認知度向上、ブランドイメージ構築、顧客獲得など、様々な目的で実施されます。
しかし、その効果を明確に測定し、改善していくためには、KPIの設定が不可欠です。
KPIとは、Key Performance Indicator の略で、「重要業績評価指標」と訳されます。
これは、目標達成に向けて、現状を数値で可視化し、客観的に進捗状況を把握するための指標です。
KPIは、目標までの道のりを数値化することで、現状がどの位置にあり、どの程度のペースで進んでいるのかを明確に示します。
目標達成までの道筋を照らす羅針盤のような役割を果たします。
広報活動におけるKPIの例としては、メディア掲載件数やイベント参加者数などの行動指標、ウェブサイトへのアクセス数や資料ダウンロード数などのアウトプット指標、ブランド認知度や顧客満足度調査などのアウトカム指標があります。
KPIとKGIの違い
KPIと混同されやすい言葉として、KGIがあります。
KPIとKGIは、どちらも目標達成に欠かせない指標ですが、それぞれ異なる役割を果たします。
KGIは、Key Goal Indicatorの略で、日本語では重要目標達成指標と呼ばれます。
これは、組織全体で達成を目指す最終的な目標を定量的に表した指標です。
KPIとKGIは密接な関係にあります。
KGIは最終的な目標を示す羅針盤であり、KPIはその目標達成までの道筋を具体的に示す道標となります。
効果的な目標達成のためには、まずKGIを設定し、それを達成するために必要なKPIを複数設定することが重要です。
広報活動には社内と社外がある
広報活動には、企業や団体と外部とのコミュニケーションである社外広報(アウターコミュニケーション)と企業や団体内部でのコミュニケーションである社内広報(インナーコミュニケーション)の2つに大きく分類されます。
それぞれ異なる目的を持ち、達成すべきKGIとKPIも異なります。
社外広報(アウターコミュニケーション)
アウターコミュニケーションは、企業や団体が外部に向けて行う情報発信や関係構築活動を指します。
主な活動内容は以下の通りです。
・プレスリリース配信:メディア向けに情報を発信し、報道獲得を目指す
・メディアリレーションズ:メディアとの良好な関係を構築し、情報発信を円滑に進める
・イベント開催:記者会見、説明会、展示会などを通して情報を発信する
・ウェブサイト運営:企業情報や製品・サービス情報などを掲載する
・ソーシャルメディア運用:Facebook、Twitter、Instagramなどを通して情報発信
・広告宣伝:テレビCM、新聞広告、雑誌広告など
これらの活動を通じて、企業や団体の認知度向上、ブランドイメージの構築、顧客獲得、売上向上などに貢献します。
社内広報(インナーコミュニケーション)
インナーコミュニケーションとは、企業内の組織力を高めるために、経営層と社員、社員同士が相互に情報を共有し、理解し合うコミュニケーション活動を指します。
社内コミュニケーションやインターナルコミュニケーションとも呼ばれます。
主な活動内容は以下の通りです。
・社内報や社内ポータル:社内情報、ニュース、福利厚生など
・経営層から社員への情報共有:経営理念、ビジョン、戦略、方針など
・社員間の情報共有:業務上の情報、進捗状況、課題など
・意見交換・議論:プロジェクトや課題解決のための意見交換
・相談・提案:仕事やプライベートに関する相談、改善提案など
・社内イベント:懇親会、レクリエーション、表彰式など
インナーコミュニケーションは、単に情報を伝えるだけでなく、社員の理解、共感、納得を得て、組織全体を同じ方向へ導くための重要な役割を果たします。
広報でよく扱われるKPIとは?
広報活動には、社外に向けて企業情報を発信する社外広報と、社内に向けて情報を共有する社内広報の2種類があります。
それぞれの目的と役割は大きく異なるため、KPI設定においても異なる視点が必要です。
よく使われるKPIとして、次のようなものがあげられます。
社外広報(アウターコミュニケーション)におけるKPI
- プレスリリースの配信先メディア数
プレスリリースが多くのメディアに掲載されるほど、情報への接触機会が増え、認知度向上やブランドイメージ強化に繋がります。 - プレスリリースのソーシャルメディアでのシェア数
シェア数は、情報拡散の指標です。多くの人にシェアされることは、高い関心を示しており、話題性や注目度の高さを測ることができます。 - プレスリリースからの取材依頼数
メディアからの取材依頼は、情報への需要を直接示す指標です。多くの取材依頼は、高い注目度と情報価値の証であり、企業価値向上に貢献します。 - 広報活動の価値を定量化する「広告換算値」
広告換算値は、広報活動によるメディア露出を広告費に換算することで、その効果をわかりやすく示します。
マーケティング活動と比較することで、広報活動の貢献度を明確に伝え、社内理解を促進できます。
社内広報(インナーコミュニケーション)におけるKPI
- 従業員の理解度・認知度
従業員が企業や製品・サービス、そして企業ビジョン・戦略についてどの程度理解しているかを把握することは、企業にとって非常に重要です。
テストやアンケート、研修後の知識確認などを通して、どの程度理解し、共感しているかどうかを測定します。
定期的に調査を行い、結果に基づいて適切な対策を講じることで、組織全体の活性化につながります。 - 従業員の行動変化
従業員に対する情報提供が、彼らの行動にどのような影響を与えたかを測定することは、インナーコミュニケーションの効果を評価する上で重要です。
従業員への情報提供が効果的だったかどうかは、行動変化を測定することで確認できます。
例えば、社内イベントや研修への参加率や、社内報やイントラネットの閲覧数、業務目標の達成率などがあります。
これらの指標を定期的に調査・分析することで、インナーコミュニケーションが社員の行動にどのような影響を与えているのかを客観的に把握できます。 - 従業員のエンゲージメント率
社員エンゲージメントとは、従業員が仕事に積極的に取り組む意欲、会社への愛着、自発的な貢献を指します。
高いエンゲージメントを持つ従業員は、高いパフォーマンスを発揮し、企業の成長を支える重要な存在です。
エンゲージメント率は、従業員エンゲージメントを数値化した指標です。
従業員アンケート調査などを通して、仕事への情熱、会社への信頼、チームワーク、成長機会への満足度などを測定し、組織全体のエンゲージメントレベルを把握します。
広報活動のKPI設定によって得られるメリットや効果
KPIを導入することで、広報活動の効果を測定するだけでなく、業務目標の設定、進捗状況や達成度の管理、評価基準の一元化などが可能です。
より効果的な広報活動を展開し、業務の効率化と生産性向上を目指すことができます。
ここでは、KPIの具体的なメリットや効果をまとめていきます。
・目標の明確化と共有
広報活動の目的を具体化し、目標を明確にすることができます。
目標が明確になることで、活動の方向性を定め、効率的に目標達成を目指すことができます。
・進捗状況の可視化
活動の進捗状況を定量的に把握することができます。
定期的にKPIを測定することで、目標達成に向けて順調に進んでいるのか、課題があるのかなど活動の進捗状況を客観的に把握し、目標達成に向けて必要な調整を行うことができます。
・効果的な活動への改善
KPIの達成状況を分析することで、効果的な施策とそうでない施策を明確化し、限られたリソースを効果的に活用できます。
効果の高い施策に重点的に取り組むことで、広報活動全体の効率化を図ることができます。
・チームワークの向上
チーム全体の目標だけでなく、各メンバーのKPIを設定することで、チームワークを強化することができます。
メンバー間の連携が促進され、目標達成に向けて一丸となって取り組む姿勢が生まれます。
・経営層への説明責任
KPIを設定することで、広報活動の成果を経営層に分かりやすく説明することができます。
活動成果を定量的に示すことで、経営層への説明責任を果たし、広報活動への理解と支援を得やすくなります。
・評価基準を統一
KPIは、成果を客観的に評価するための基準として機能します。
曖昧な評価基準を排除し、共通の指標に基づいて成果を測定することで、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献します。
広報活動におけるKPI設定の5つのステップ
広報活動の成果を測る指標として重要な役割を担うKPI。
しかし、闇雲に設定しても効果は得られません。
効果的な広報活動のKPI設定について、以下の5つのステップが必要です。
1:最終目標となるKGIを定める
まず、広報活動を通して達成したい最終目標であるKGIを設定します。
目標は、SMART=Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限がある)という指標で設定すると効果的です。
2:KGI達成に必要なプロセスを洗い出す
KGIを達成するために必要なプロセスを洗い出します。
必要な活動を全てリストアップすることで、目標達成に必要な要素を把握できます。
3:プロセスを細分化する
洗い出したプロセスを、より細分化していきます。
細分化することで、それぞれの活動が目標達成にどのように貢献するのかを明確に把握できます。
4:プロセスを数値化する
細分化したプロセスを数値化します。
数値化することで、目標達成度を客観的に測定し、進捗状況を管理することができます。
5:数値化したプロセスを業務に反映させKPIとして設定する
数値化したプロセスを業務に反映させ、KPIとして設定します。
KPIを設定することで、目標達成に向けた具体的な行動指針となります。
広報におけるKPIの目標設定の具体例
前述の通り、広報活動には社外広報と社内広報があり、それぞれ目的が異なります。
ここからは、社外広報や社内広報における効果的なKPIの目標設定の例をまとめていきます。
・社外広報(アウターコミュニケーション)のKPIの具体例
社外広報は、企業や組織が外に向けて行う広報活動です。 商品やサービスをより知ってもらったり、良い人材を引き寄せるために、メディアやイベント、SNSなどを活用して外部とコミュニケーションをとります。 企業の良さをアピールして、外部ステークホルダーとの良い関係を築く手段です。
具体例1:メディア露出や掲載件数
社外広報のKPIとして、メディアへの露出・掲載件数は頻繁に設定されます。
しかし、単に露出されれば良いという考え方は誤りです。
メディア掲載は、事件や事故などのニュースに左右されやすいという特性があります。
効果的な目標設定のために、以下の点を考慮しましょう。
ターゲットメディアの選定:自社のターゲット層にリーチできる媒体を明確にする
質の高い掲載を目指す:業界誌、主要経済誌、知名度・影響力のあるメディアへの掲載を目指す
掲載内容の分析:自社の強みやメッセージが明確に伝わる記事、記事トップへの掲載、高画質な写真・動画の使用を目指す
BtoB企業の場合、顧客満足度やサービスへのロイヤルティを定量的に示すNPS (Net Promoter Score) も有効なKPIです。
メディア露出・掲載件数を単なる数字として捉えるのではなく、戦略的に活用することで、より効果的な広報活動を展開することができます。
具体例2:CV(コンバージョン)数やCV率
マーケティング分野でよく使われるCV(コンバージョン)数は、社外広報のKPIとしても設定されます。
CV数とは、ウェブサイト訪問者が意図した行動を起こした数を指します。
最終的な成果指標として用いられるCV数ですが、効果的な目標設定には、自社の目標や状況を踏まえることが重要です。
CV数として設定されることが多い項目としては、イベント申し込み件数、問い合わせ件数、商品購入数、資料ダウンロード件数などがあります。
これらの指標を分析することで、広報活動の成果を定量的に把握し、改善に役立てることができます。
・社内広報(インナーコミュニケーション)のKPIの具体例
社内広報においても、KPIの設定は重要です。
例えば、社内報を通じて組織の課題や目標の理解をどれだけ深められるか、社員の間で情報がどれだけ共有されているかを、Web社内報の場合はアクセス数、記事へのコメント数、共有回数などから測ることができます。
これらの数値を分析することで、社内報の効果や改善点を見つけ出し、より効果的な情報共有ができるように調整していくことが可能です。
具体例1:コンテンツのPV数
最初に設定すべきKPIとして、コンテンツのPV(ページビュー)数があります。
PV数は、コンテンツが閲覧された回数を表すもので、例えば目標値を100%とした場合に、
達成評価基準として85%以上なら優良、50%以上なら良、15%以下なら危機、など具体的な基準を設けることで、成果を分かりやすく評価し、改善に繋げやすくなります。
各記事のPV数は、見出しの魅力や訴求力などの指標となります。
動画コンテンツの場合は、再生回数も重要な指標となります。
PV数と合わせて分析することで、ユーザーの興味や関心をより深く理解することができます。
具体例2:読了率やサイト内の回遊率
記事の読了率やサイト内回遊率は、ユーザーのエンゲージメントを測る上で重要な指標です。
サイト内回遊率は、1回のセッション(訪問)で閲覧されたページ数の平均値で、 PV数 ÷ セッション数(訪問数)で計算することができます。
サイト内回遊率が高いほど、ユーザーがサイトに興味を持っていることを示しており、記事に対する効果測定が可能です。
目標値は、例えば優良:5.0以上、良:2.5以上、危機:1.0のような形で設定しておくと把握しやすいでしょう。
読了率は、記事が最後まで読まれた割合を示します。
スクロール率やコンテンツのボリュームだけでなく、記事ごとの平均ページ滞在時間も重要な指標となります。
平均滞在時間が長い記事は、最後まで読まれた可能性が高く、読者にとって魅力的な記事であると言えるでしょう。
具体例3:リアクション
コンテンツに対するリアクション率は、読者のエンゲージメントを測定する指標として有効です。
記事へのクリック数やコメント数などを分析することで、ユーザーの反応を把握することができます。
PVから何らかのリアクションにつながった割合を100%とした場合、リアクション率の目標値として、例えば、85%以上なら優良、50%以上なら良、15%以下なら危機、など具体的な基準を設けることで、成果を分かりやすく把握することができるでしょう。
また、Web社内報の認知度を測る指標として、アクティブ・ユーザー率も有効です。
全アカウント数に対する閲覧率を算出することで、周知対策の効果を測定することができます。
まとめ
広報活動におけるKPI設定は、企業や団体の目標達成に不可欠な要素です。
効果的なKPI設定によって、目標の明確化、進捗状況の可視化、効果的な活動への改善、チームワークの向上、経営層への説明責任の果たし、評価基準の統一といったメリットを得ることができます。
広報活動には社外広報と社内広報があり、それぞれ異なるKPI設定が必要です。
社外広報のKPIは、メディア掲載数、認知度、顧客獲得数、売上など、外部からの評価を測定する指標が中心となります。
社内広報のKPIは、社員満足度、エンゲージメント、情報共有率、業務効率など、社内の状況を測定する指標が中心となります。
KPI設定には5つのステップがあり、1. 最終目標となるKGIを定める、2. KGI達成に必要なプロセスを洗い出す、3. プロセスを細分化する、4. プロセスを数値化する、5. 数値化したプロセスを業務に反映させKPIとして設定する、という流れで進めます。
本記事を参考に、広報活動でKPIを上手に活用し、目標達成に向けて効果的な戦略を展開していきましょう。