戦略人事は、組織の長期的な目標達成に向けて、人材をどのように配置、育成、評価するかを考える役割を持っています。言い換えると、会社の方向性や将来のビジョンと、その実現のための人材戦略をリンクさせる役職となります。
目次
戦略人事の基本的な役割と意義
戦略人事が果たす役割は多岐にわたります。従業員の採用時から退職までのライフサイクル全体を見据え、彼らの能力開発、キャリア形成、評価システムの設計などを戦略的に考えます。これにより、社員が自身の可能性を最大限に発揮し、会社の目標達成に貢献できる環境を整えることが目指されます。
フレームワークの利用価値とその役割
フレームワークは、あるテーマや課題に対する考え方やアプローチを整理・体系化したものです。戦略人事において、フレームワークを利用することで、人材戦略の策定や実施が明確で効果的になります。実際の業務の中で直面する複雑な問題も、フレームワークを用いることで分析や解決が容易になります。
第一部:育成に関するフレームワーク
フレームワーク1:70-20-10モデル
- モデルの概要とその利用方法
70-20-10モデルは、人の学びや成長における経験の割合を示すものです。具体的には、70%が仕事上の経験、20%が人間関係からの学び、10%がフォーマルな研修や教育から得られるとされています。これを踏まえて、社内の教育プログラムや研修をデザインする際の指標として利用します。 - 70-20-10モデルを活用するための具体的な戦略と例
例として、新入社員の研修を考えた場合、10%の時間を専門的な講義や外部の研修に、70%の時間を実務経験の獲得に、20%の時間を先輩や上司とのフィードバックの時間に割くというプランを立てることが考えられます。
フレームワーク2:マッキンゼーの7Sフレームワーク
- フレームワークの概要とその利用方法
マッキンゼーの7Sフレームワークは、組織を構成する7つの要素(Strategy、Structure、Systems、Shared Values、Skills、Style、Staff)を整理・分析するためのモデルです。組織の現状や問題点を明確にし、改善策や新たな方針を策定する際に活用されます。 - 7Sフレームワークを活用するための具体的な戦略と例
例えば、ある部門の生産性が低下している場合、7Sの視点からその原因を分析します。はたして、戦略が明確でないのか、組織の構造に問題があるのか、あるいはスキルや価値観にギャップが生じているのか。このフレームワークを通して、問題の本質を探り、適切な改善策を策定することができます。
第二部:評価に関するフレームワーク
フレームワーク3:360度評価
- フレームワークの概要とその利用方法
360度評価は、従業員の業績や能力を多方面から評価する方法です。上司、部下、同僚、そして自己評価を組み合わせることで、より総合的で公平な評価を目指します。特に、チームワークやリーダーシップ能力などの評価に向いています。 - 360度評価を活用するための具体的な戦略と例
360度評価を導入する際は、まず社内の文化や風土を理解し、開かれたフィードバック文化の醸成が大切です。例えば、評価の前に、従業員向けのワークショップを開催し、評価の目的や方法について説明を行う。また、フィードバックの受け取り方や反映の仕方についてのトレーニングも実施することで、有意義な評価を行うことができます。
フレームワーク4:バランススコアカード
- フレームワークの概要とその利用方法
バランススコアカードは、企業のビジョンや戦略を実行に移すための管理ツールです。財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点からKPI(重要業績評価指標)を設定し、これをもとに業務の進捗や成果を定期的に評価します。 - バランススコアカードを活用するための具体的な戦略と例
例えば、新商品の販売を目指す場合、財務の視点では「売上高」「利益率」、顧客の視点では「顧客満足度」「リピート率」、業務プロセスでは「製造コスト」「納期遵守率」、学習と成長の視点では「新商品に関する研修の受講率」「新技術の取り入れ率」など、各視点に合わせたKPIを設定し、これを達成するための戦略や取り組みを策定します。
第三部:組織文化・風土に関するフレームワーク
フレームワーク5:ディールとケネディの企業文化モデル
- フレームワークの概要とその利用方法
ディールとケネディの企業文化モデルは、組織の文化を4つのタイプ(「強い文化」「弱い文化」「適応性の高い文化」「安定した文化」)に分類するモデルです。これを用いて、組織の現在の文化や風土を理解し、必要に応じて改善策を策定します。 - 企業文化モデルを活用するための具体的な戦略と例
組織の文化や風土の改革を目指す場合、このモデルを参照して現状分析を行います。例えば、組織が「安定した文化」に偏っている場合、変革の取り組みが難しい可能性が高い。そのため、トップリーダーシップの強化や中間管理職の役割を再定義するなど、戦略的なアプローチが求められます。
一方、組織が「適応性の高い文化」に近い場合、新しいイニシアティブや変革に対する受容性が高いと推測できます。しかし、それだけでなく、このタイプの文化はスピードや独自性を重視するため、方向性や統制を欠くリスクが伴います。このような場合、クリアなビジョンやミッションの共有、組織全体での価値観の統一などが鍵となる戦略となります。
具体的な例としては、定期的に組織のビジョンやミッションを再確認するワークショップを開催したり、新しい取り組みや方針についての社内コミュニケーションを強化することが挙げられます。
まとめ
各フレームワークの活用ポイントの再確認
- 70-20-10モデル
継続的な学びを促進し、実践を重視する文化の醸成に有効。 - マッキンゼーの7Sフレームワーク:
組織の全体像を捉え、バランスよく改革を進めるための指南として利用。 - 360度評価:
多角的な視点での評価を実現し、公平性と透明性を確保しましょう。 - バランススコアカード:
経営戦略の実行を助け、総合的な業績の監視と評価に役立てる。 - ディールとケネディの企業文化モデル:
組織の文化や風土を理解し、効果的な変革戦略を策定するための指南として活用。
フレームワークの活用価値とその効果
フレームワークを採用することで、戦略人事の目標や取り組みがより明確になり、その効果を具体的に測定することが可能となります。また、組織全体の理解と共有が促進されることで、一貫性のある方向性を保ちつつ、変革や成果を最大化することが期待できます。
フレームワーク選定時の注意点
フレームワーク選定時には、組織の現状や目的、課題に応じて最適なものを選ぶことが重要です。全てのフレームワークが全ての組織や状況に合致するわけではありません。導入前の十分な事前調査や評価、場合によっては試験的な導入を経てのフィードバックを取り入れることで、より効果的なフレームワークの活用が可能となります。